株主優待券の会計処理:引当金計上は必要か?

ビジネス法務の部屋さんで株主優待券の会計処理(その2)というエントリがあった。内容は、ビジネス法務の部屋さんが株主優待券を引当計上することについての疑問、特に使用見込率についての合理的見積もりができないのではないかという疑問に対して、とある会計士の方からきたという「株主優待引当金の計上は原則」という意見を紹介するものだった。

僕が思うに、当面は企業によって引当金を計上したり計上しなかったりというバラバラの状態が続くだろう。会計は一般に事実と慣習と判断の総合的な産物と言われているとおり、ひとつの事実について必ずしも画一的な処理がなされるわけではない。決算期末日等の権利確定日の段階で、合理的に見積もりが可能かどうかは別として、何らかの債務が発生していることは間違いがないだろう。合理的に見積もりが可能かというのは、実質的に見積もり可能かどうかというよりは、「慣習」だったり、「判断」によって決まってくるのではないかと思う。

慣習とはどういうことかといえば、世の中の多くの会社がどうやって処理しているのかという流れだと思う。例えば、今ではすっかり当たり前になったポイントサービス引当金であるが、当初は企業によって計上していたり計上していなかったりまちまちであった。だんだんと、ポイントサービス引当金を計上する企業が増えるにつれて、ポイントサービス引当金は「計上しなければならない」、「計上が原則」なものになっていったのだと思う。したがって、今後、株主優待引当金を計上する企業が増えていけば、いずれかの段階で本当に計上が原則になるときがやってくるのだろう。

判断とはどういうことかといえば、まずは経営者が計上が必要だと判断するかどうかであり、次にその判断を現場の監査チームが妥当と認めるかどうかという判断、そして監査法人内の品質管理(審理)部門が監査チームの判断を妥当と認めるかどうかという判断の組み合わせによるのだと思う。株主優待引当金について、経営者がどのように判断するか、それについて担当の監査人がどのように判断するかというのは、当面は、個々のケースによって組み合わせが異なってくるだろう。

株主優待券の使用見込率を合理的に見積もれるかどうかというのは、実もフタもない言い方をしてしまえば、どちらでも解釈可能だし、どちらの立場に立って言い切ってしまうかどうかだけの問題だと思う。ここ10年ほどの間にそういう会計領域は増えているような気がする。例えば、退職給付債務の計算や減損会計の中で用いられている見積もりが合理的に可能かどうかといえば、かなり怪しいような気もするけれど、世の中、合理的に見積もり可能という前提を皆で無理やり共有して会計処理を行っている。

最後に、ビジネス法務の部屋さんが株主優待引当金の趣旨について示した疑問について考えてみたい。
ポイントを顧客に取得させるというのは、売上とそのための販売促進に向けてのものであって、なんとなく収益と費用との対応が認識できるのでありますが、この株式優待制度を「株主優待引当金」として計上する場合、企業が取得すべき収益という概念は登場してくるのでしょうか?

株主優待引当金を費用収益対応の原則から考えてみると、かなり苦しい理屈ではあるけれど、資本コストの削減ということではないだろうか。そもそもの株主優待の趣旨は、多くの個人投資家を安定株主として獲得することにより株価の安定と流動性を確保しようというものであり、それは自己資本の資本コストを下げようという取り組みなのではないかと思う。ただ、株主優待制度が本当に資本コストの削減に役立っているのかと言えば怪しい気がする。ある個人が、株主と顧客の両方の立場にあるということは、いずれの立場における意思決定も他方の立場による影響を受け、経済合理的な判断と言うのができなくなるのではないか、結果、財・サービス市場側も資本市場側も何らかの市場の失敗が起こっているのではないか、という気がする。根拠もなく適当に書いてるけど。

こう考えてくると株主優待引当金は期間損益計算の適正化というようりは、バランスシートの時価評価という流れの中で捉えた方がわかりやすい。これもここ10年ほどの流れだと思うが、バランスシート上の資産及び負債をできるだけ時価評価する方向にある。金融商品会計基準や固定資産の減損会計、来年度から導入される棚卸資産の低価法なんかは、費用収益対応という観点から説明するのはほとんど不可能で、バランスシートの時価評価という観点が大きいのだろう。決算日現在で、株主優待の権利確定に伴う何らかの債務が発生しているのであればそれをきちんとバランスシートに載せなさい、ということなのだろう。
           

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非常にぼくのツボを捉える。あかつき氏のモノの見方というのは,とても参考になる。 ビジネス法務の部屋さんの株主優待券の会計処理(その2)で紹介されている会計... 続きを読む

少し前に株主優待券の会計処理:引当金計上は必要か?というエントリを書いたのだが、... 続きを読む

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はじめまして。 TBありがとうございました。おかげさまで、非常にわかりやすい解説に出会えました。 また、さらにこのエントリーを拝読して、新たな論点が浮かんでまいりました。 今後とも、ご教示のほどよろしくお願いいたします。
>toshi様 はじめまして。コメントありがとうございます。今やアルファブロガーの仲間入りをされようとしている方からコメントをいただけるなんて光栄です。 私はまだまだ若輩者ですが、今後も「ビジネス法務の部屋」を拝読させていただき、勉強させていただきたいと思います。 今後ともよろしくお願いいたします。

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