報酬制度としてのストックオプション

はてなの益田に書かれた背伸びして上場を目指す経営者に対する10のお願いというエントリが人気を集めていた。

人事総務財務部門の管理職として、経営者と従業員に挟まれ、投資家や株主、銀行その他などと対峙しながら、IPO前とIPO後を担当してきた僕としては、こういう記事を読むと色々と思うところが湧き出てくる。あまりに色々な想いが交錯するので、この中で出てくるストックオプションについて書いてみたい。

ストックオプションは財産を増やすための道具ではありません
増してやあなたの私腹を肥やすための道具ではありません。

必死になって現場で頑張っている社員の多くはあなたが持っている株と比べればカスくらいのストックオプションすら持っていません。上場におけるあなたの役割は大変重要なのはわかりますし、立場上株を持ち続けなくてはいけないことも理解しています。しかし、大したオプションも与えられていない社員からしてみれば十分な議決権を持っているあなたが、必要以上にストックオプションを自分に対して発行するのは金の亡者に見えてきます。

また、政治的な目的で発行されたストックオプションは上場するために必要なのかもしれませんが、社員のモラルを低下させます。

上場まで頑張ってきてくれたみんなに対する感謝を込めてストックオプションを渡してください。また、大して利益にもならないストックオプションを渡すくらいなら普通にボーナスを出したほうがみんな喜ぶと思います。

まず、普通の社員というのはストックオプションについてほとんど知識がないし、関心も持っていないことが多いのではないだろうか。なので、経営者が持っているオプションの数と自分が持っている「カスくらい」の数を比べて文句をいうような人はあまりいない。また、「政治的な目的で発行されたストックオプション」というのが存在する会社もあるのだろうが、そのような発行の存在が一般社員に知られる可能性というのは小さい。オプションを発行するたびに社内に、その詳細を周知する会社なんてないだろうし、オプションの数と保有者とかが完全にディスクローズされるのは、上場にあたっての目論見書においてである。それでも普通の社員は、目論見書の存在も知らなければ、読み方も知らないことが多い。そういった意味では、ストックオプションの配布方針が社員のモチベーションを上げたり下げたりする効果というのはほとんどない。残念ながらモチベーションを高める効果というのもほとんどない。ストックオプションの意味を正しく理解していない場合が多いので、それをもらう意味が正確には理解されないし、まして「一生懸命働いて株価を上げよう」ということになる可能性は低い。結局、上場後とか後になって"棚からボタ餅"で儲けて「ストックオプションて、そういうことだったのか」と理解する社員が多い。

「ストックオプションを渡すくらいなら普通にボーナスを」というのは、割と真っ当な感覚だと思う。新興企業やベンチャー企業でストックオプションが多用されていたのは、経営者から見てそれが「タダ」で渡せる給料だったからだろう。ストックオプションを発行すれば、当然に資本コストがかかっているのだが、その目に見えないコストについて実感を伴って把握してる経営者というのはあまり多くない。昨年からストック・オプション等に関する会計基準(企業会計基準第八号)が適用されるようになり、今まで目に見えなかったコストが見えるようになったので、世の中の経営者の考え方も変ってきている。オプションの価値を計算してみて、要費用計上額の多額さに驚いているケースも少なくないだろう。こんなに費用を計上するのであれば、現金で渡したほうがましだ、という風に考えるのも自然だ。費用計上と一言で言っても、企業の担当者としてはなかなかに厄介な論点が多い。オプションの発行をどのくらいの規模で行い、どのくらいの範囲を対象に付与するか、そしてそれは予算上許容できるかといったところを判断するためには、要費用計上額すなわちオプションの価値がわからないとできないのだが、このオプションの評価というのが簡単ではない。"金融工学の専門家"とかに頼んだりすると1回数十万円から数百万円かかる場合もある。なので、前提条件を色々と変えてたくさんのパターンをシミュレーションする、といったことがやりにくかったりする。なのでExcelによるストックオプション評価とかをうまくつかいこなせると、オプションの価値を正しく把握して、報酬制度の一環をなすストックオプションを適切に利用することができる。
           

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