ニコニコ動画のビジネスモデルと可能性

一昨日のことだが、株式会社ドワンゴの2007年9月期の第3四半期決算が発表されていた。連結子会社の株式会社ニワンゴが運営するニコニコ動画の運営コスト負担が重く赤字決算となっている。連結営業赤字は260百万円である。セグメント別損益を見ると、ニコニコ動画が属する「その他事業」の営業赤字が611百万円で、これが連結営業損益全体の足を引っ張っているのが一目瞭然だ。通期業績予想では営業赤字700百万円となっており、更に赤字が拡大するようだ。

ただ、赤字を垂れ流しているとはいえ、ニコニコ動画の爆発的な成長には大きな可能性を感じてしまう。次の図はalexaでニコニコ動画のサイトランクを調べたものである。わずか半年ばかりの間での急激な立ち上がり方もすごいし、(比較のために載せた)アマゾンのような巨大サイトを既に追い越してしまっているのもすごい。ちなみに、ニコニコ動画のランクは本家の2ちゃんねるも追い越している。alexaのデータは母集団が偏っているとか色々と言われているが、厳密なトラフィックやリーチは別として、このトレンド線が示すニコニコ動画の勢いが強烈過ぎるというのは事実だ。


さて、ドワンゴやニワンゴのひろゆき氏は、このお化けのようなサービスをどうやって収益化していくのだろうか?3ヶ月ほど前に公表されたドワンゴの中間決算説明会の資料では、資料全体の3分の1超のページが割り当ててにはニコニコ動画のビジネスモデルについての説明が行われている。この資料の中で、収益モデルの方向性として、次の4つが示されている。

􀂋プレミア会員(¥525/月)
􀂋有料コンテンツ(課金サービス)
􀂋広告モデル
􀂋モバイル版「ニコニコ動画」

これらの収益モデルは、彼らの思惑通りに確立するのだろうか?少し整理して考えてみたい。次の図は、動画ビジネスのポジショニングをマトリックス上に整理してみたものである。横軸は、コンテンツの中身を、いわゆるCGMとしてユーザーが増殖させているものなのか、版権物として商業ベースでの制作費回収を前提として製作されたものなのかで分けてみた。縦軸は収益モデルを、要するにユーザーへの課金なのか、スポンサーからの広告なのかで分けてみた。


僕の理解では、現状のニコニコ動画は左下の象限に位置している。わずかばかりのバナー広告とニコニコ市場によるアフィリエイトによる収入しかない。ちなみにYouTubeもこの左下の象限に位置している。YouTubeとニコニコ動画の比較については、暇があれば別の機会に書いてみたい。

ニコニコ動画が既に導入したプレミア会員というのは、左上の象限に移動しようという目論見である。短期的には、このプレミア会員が成功するかどうかがビジネスとして成り立つかどうかの鍵を握っている。モバイルではなくPCの世界でこの会員に対する月額課金というのが成り立つのかどうか要注目である。

有料コンテンツというのは右上の象限の話である。版権動画をユーザー課金で配信するというのは、結構ベーシックなモデルで20年前とか(正確には知らないが)からレンタルビデオという形で存在する。今であれば、レンタルDVDにセルDVD。それが少し進化したのが、通信衛星を利用したCS放送のモデル。インターネットを利用したのがiTunes Storeということだろう。陳腐な表現になってしまうが、インターネットのブロードバンド接続の爆発的な普及とムーアの法則によるストレージデバイスや通信設備のコスト低下を考えると、この右上のモデルは非常に有望である。

この版権コンテンツのユーザー課金という有望な市場をめぐっての争いはこれからが本番だ。これから様々な企業が参入し覇権を争うことになるだろう。現状において、iTunes Storeが圧倒的なポジションを確保してしまったように見えるが(動画はまだまだイマイチで音楽メインだけど)、その地位は磐石なものではなく意外と危うい。そもそも、電波帯という限られた資源により参入が制限されている地上波の民放などとは異なり、このビジネスへの参入は自由だ。iTunes Storeの強さの源泉は、iPodという音楽用ポータブルデバイスの普及個数にある。川下の顧客(ユーザー)を押さえてしまっているから、ユーザーに配信したいコンテンツ製作者はアップルと組まざるを得ない状況にある。しかし、動画を見るのに外でiPodというシチュエーションは少ないだろう、多くは屋内でテレビやPCを使ってである。デバイスによるユーザの囲い込みは難しいだろう。そうなってくると、川上のコンテンツ供給側を押さえるという戦略もあるだろうし、デバイス以外の何らかの魅力でユーザを囲い込むという戦略もあるだろう。このユーザー囲い込み戦略を採るとすると、ニコニコ動画の強みであるコミュニティ機能にはネットワークの外部性が働くから、キャズムを超えてしまえば圧倒的なポジションを確保できるかもしれない。まあでも、それだけでは万全の競争基盤とは言えないから、ニコニコ動画が長期的に成功するためには川上の方のコンテンツ供給をどう押さえるかという点も重要だろう。

ちなみに、右下の象限の版権コンテンツを配信し広告収入を得るというモデルは、地上波の民放のビジネスモデルそのものである。前の方で少し触れたが、この地上波民放がものすごい収益性と圧倒的なリーチを誇っていたのは、彼らのビジネス力によるものではない。彼らの力の源泉は、単に電波という限られた資源を独占しうる立場にいたというポジショニングにある。そういう意味で、参入が自由なインターネット上で版権コンテンツの広告モデルを確立しようとしたGyaoのビジネスはもともとリスキーな賭けだったのだ。Gyaoが圧倒的な競争力を確立できるとしたら、エクスペリエンスカーブ(経験曲線)をだれよりも早く右下にどんどん下りて行き、だれも追いつけないようなコスト競争力を身につけることができた時だったのだろう。しかしそうなる前に、著作権無視コンテンツ満載(当初)のYouTubeが参入してきて、Gyaoの野望は断たれてしまった。

以上、組曲『ニコニコ動画』をBGMに書きました。
           

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